2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

倦怠する夜に

声を振ると星が舞った ひとこと、彼女が口を開けばひとつ 目の前でひとつ、鼻の先でまたひとつ、瞬く うっとりときて 相槌で拾い集めている彼女の ーーを 目でひとつ、鼻でまたひとつ、唇、粘膜でもうひとつ、深く 受け取って肺の中 星空が 肺の中に星空が広…

きみの体に太陽の指紋

乱暴になっていく欲を制止すると花が咲く。爪で咲いて、唇で咲いて、胸で咲く。ここはパリじゃない、けれども、太陽は窓を叩く。鍵穴を抜ける風、それが開いていく。壁紙を撫でるカーテン、いちいち愛してなどいられない。爪で言って、唇で言って、胸で言う…

死よりも確かに、きみを迎えに

放った矢できみの居場所がわかった 宇宙から空が落ちてくる 矢が夜を砕いて きらめいた その音 夜が砕ける 音 が手紙よりも確かに きみの居場所を教えている 帆は風の中を進む 砂でできた猿 砂漠では猿が暮らしていて ぼくの暮らしにはきみが 冬には手袋が …

楽園のそれ、病床のそれ

指の間で時代が脈を打って すぐに良くなる 肩が揺れる 「我慢できない?」 踊っていってね、と首を掴まれてもう 我慢できない 末端まで押し流されていく、渦巻く、血がめぐって踊りだす 腹の底から上がってくる 音楽を知っている 「死ぬほどいいって?」 走…

人類が最後に描く一枚

朝 部屋の隅が光で削れている 窓の近く そこにあなたの下着が落ちている 昨夜からずっとそこで息をして眠っている 美術館の最後の部屋にある額縁 ひっそりと手を振る果物にあなたの下着は似ている 手を伸ばす どうしても欲しい 〝赤いリンゴ〟 人類が最初に…

夢の間で他人だった

夏の間は他人だった なのにきみ あのように喜んだりしてはしたない 肩に冬がつもる 踏切 点滅 またこんど 鼓膜にぶつかる〝帰りたくない〟 事故にあったようなもの 見下ろした顔の中 まつげの先ではチリチリと結晶がゆれている きれい 冬の重みにみぞおちが…

体を脱いで宇宙へ出かける

正気が指を鳴らす はぐれないようひっきりなしに 時刻ちょうどに渋谷 ビルの上にはパラシュートを背負った音楽が整列している Mは言った「アリじゃあるまいし」 たっぷりの砂糖をまぶした煙で肺をいっぱいにして さっきまで遠くにいた 体を脱いで宇宙へ出か…

きみの髪は湿った詩集の匂い

時限性の要求 あいしてねあいしてね 胸のピンが飛んだ 「あいしてる」 きみが爆発する ぼくの中で自殺するみたいに くれなきゃ死んじゃう!なんて きみの髪は湿った詩集の匂い 泣いたり死んだり いちいちロマンティック 胸のホックが外れた くれなきゃ死んじ…

11:42 a.m.

かかとが降りた先 ネジを巻いた街が動き出す 昨夜は楽しかった ぼくら、指を切ろう 血が流れるような誓い 朽ちるまでランチ 裸のままランチを ぼくらほとんど楽しくなって ランチボックスにサンドイッチ 昨夜はごめんよ きみは素敵だ男が列を成す まるでハー…

夜にサーカスが灯る

夜にサーカスが灯る 橋の向こう 見慣れた街を照らす幻のような光 あなたがこの貧しい部屋で服を脱いだとき 堰を切ったように願いが生まれた 窓の中にいる二人 鞭打つ夜 合図で鼻をあげる象 あなたが火をつけると飛びあがるライオン よくしなう 堰を切った二…